1. 「いびき」に悩んでいませんか?睡眠の質と健康への影響

 

 

いびきが続くとどうなる?体に起こる影響とは

いびきは単なる音の問題ではなく、体にとって重要な「睡眠の質」を下げてしまう要因のひとつです。
いびきをかいている間は、気道が何らかの理由で狭くなり、呼吸がスムーズに行えなくなっています。
その結果、酸素の取り込みが低下し、脳や身体の回復に必要な深い睡眠が妨げられます。
十分な酸素が供給されないことで、日中の強い眠気・集中力の低下・頭痛・疲労感といった症状が現れることがあります。
これらは一時的な不調ではなく、放置することで心疾患や高血圧、糖尿病など慢性疾患のリスクを高める可能性が指摘されています。
また、慢性的ないびきは、自律神経の乱れやホルモンバランスの崩れにもつながり、知らず知らずのうちに体調不良を引き起こしているケースも少なくありません。
「いびきをかいているだけ」と見過ごさず、睡眠中の異変に早めに気づき、必要な対策を講じることが、健康維持への大きな一歩となります。
 

家族や同居人への影響も無視できない

いびきによる影響は本人だけではありません。
パートナーや家族など、同じ部屋で眠る人にとっても深刻な睡眠妨害となることが多いのが実情です。
特に大きないびきは、途中で目が覚めてしまったり、眠りが浅くなったりする原因となり、長期間続けばお互いの生活リズムや関係性にまで悪影響を及ぼすことがあります。
また、いびきがあまりにひどいと、本人よりも周囲が先にその異変に気づくこともあります。
睡眠中に呼吸が止まっているように見えたり、突然大きな音とともに再び呼吸が始まるような様子が見られる場合、それは睡眠時無呼吸症候群の可能性もあります。
こうしたサインに気づいたら、専門医への相談が必要です。
いびきは「自分だけの問題」ではありません。周囲への配慮という意味でも、適切な治療や相談を受けることが求められます。
家族の安眠を守ることが、自身の健康を見直すきっかけにもなります。
 

「いびき=ただの癖」ではないという認識を

「昔からいびきをかいているから」「疲れている日だけだろう」といった理由で、いびきを単なる“癖”として放置している方も多いかもしれません。
しかし、いびきは身体の異常を知らせる“サイン”であることが少なくありません。
慢性的ないびきは、気道の狭窄や舌の位置異常、顎の後退、鼻づまりなど、明確な原因が存在することがほとんどです。
また、いびきが出る頻度や音の大きさが増している、起床時に口が乾いている、日中に強い眠気があるといった症状があれば、すでに無呼吸や低呼吸の状態にある可能性も考えられます。
放置することで体への負担が蓄積し、生活の質を下げるだけでなく、交通事故や仕事のミスなど社会的なリスクにもつながりかねません。
いびきは「仕方ないこと」ではなく、「改善できるかもしれない症状」です。
きちんと原因を見極め、治療を受けることで、健康的な生活を取り戻せる可能性が十分にあります。
その第一歩は、「癖」と決めつけず、医療的に向き合う意識を持つことです。
 
 

2. そもそもいびきの原因は?メカニズムを知ろう

 

 

いびきはどこから出る?空気の通り道と振動の関係

いびきは、睡眠中に空気の通り道(上気道)が狭くなることで、呼吸時に周囲の粘膜が振動して発生する音です。
特に、軟口蓋(のどちんこのある柔らかい部分)や舌、咽頭部の粘膜が振動源となることが多いとされています。
普段は開いている気道も、眠って筋肉の緊張がゆるむと、舌が喉の奥に落ち込みやすくなり、空気の流れが妨げられやすくなります。
その結果、狭くなった空間を空気が無理に通ろうとすることで、周囲の組織がブルブルと震えてしまい、「グーグー」「ガーガー」といった音が生じます。これがいびきの正体です。
特に仰向けで寝ていると舌が後方に下がりやすくなるため、姿勢によってもいびきが出やすくなるのが特徴です。
つまり、いびきは呼吸の際に空気の通り道がどれだけ確保されているかによって大きく変化します。
口腔や喉の構造に問題がある場合、気道が狭くなりやすいため、いびきのリスクが高まることになります。
 

肥満や加齢、姿勢が引き金になることも

いびきが起きる背景には、解剖学的な問題だけでなく、体格や生活習慣、年齢などの要因も深く関係しています。
たとえば肥満体型の人は、首まわりや喉周辺に脂肪がつきやすく、それが気道を圧迫していびきを引き起こしやすくなります。
実際に、首周りの脂肪が多いと、寝ている間に気道が塞がりやすくなるため、いびきをかく頻度も高くなります。
加齢も大きな要因です。年齢を重ねると、喉の筋肉が徐々に衰えてきます。筋肉が緩むことで、眠っている間に舌や軟口蓋が落ち込みやすくなり、気道の閉塞を助長するのです。
また、閉経後の女性にいびきが増えるのも、ホルモンバランスの変化が筋肉や粘膜に影響を与えるためと考えられています。
寝る姿勢も重要なファクターです。特に仰向け寝は舌が重力で喉の奥へと沈み込みやすくなるため、いびきが出やすくなります。
横向きで寝ることでいびきが軽減される人もいることから、姿勢調整も有効な対策となります。
いびきの背景には複数の要素が絡んでおり、それぞれの原因を正確に見極めることが改善への第一歩です。
 

睡眠時無呼吸症候群との関連性に注意

慢性的ないびきを抱えている方が特に注意すべきなのが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」との関係です。
これは、睡眠中に何度も呼吸が止まる、または極端に浅くなる症状が繰り返される疾患であり、いびきの背後に隠れていることが少なくありません。
SASの主な特徴は、「いびきが非常に大きい」「いびきが急に止まり、しばらくしてまた始まる」「日中に強い眠気がある」などです。
呼吸が止まっている間、体は低酸素状態に陥っており、これが繰り返されることで心臓や脳に大きな負担がかかります。
高血圧・不整脈・脳卒中・心筋梗塞などの重大な疾患と強い相関があることがわかっています。
また、睡眠の質が低下することで、集中力の低下や居眠り運転など社会的なリスクも増加します。
特に無呼吸の有無は、自覚症状がないこともあるため、パートナーの指摘やいびきの変化に気づいた段階で専門的な検査を受けることが重要です。
いびきは、単に音の問題ではなく、命に関わる疾患の前兆である可能性もあることを忘れてはなりません。
 
 

3. いびきと歯科の意外な関係


 

歯科医院で「いびき治療」ができる理由

いびき治療と聞くと、耳鼻科や睡眠外来を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実は歯科医院でもいびきの治療を受けられることをご存知でしょうか。
いびきの多くは、気道が狭くなることによって発生しますが、その気道の一部を構成するのが「口腔」や「顎の位置」です。
歯科医師はこうした口腔構造に関する専門知識を有しているため、いびきの根本にアプローチできる立場にあります。

特に歯科で注目されているのが、睡眠時に装着する「マウスピース治療(スリープスプリント)」です。
これは下顎を前方に移動させ、気道を広げることでいびきを改善する治療法で、歯科医院で作製・調整が可能です。
医科との連携のもとで行われるケースも多く、軽度から中等度のいびきや睡眠時無呼吸の治療において、歯科は重要な役割を果たしています。
歯科医院は、単なる「虫歯の治療」や「歯のクリーニング」だけでなく、こうした睡眠の質に関わるアプローチもできる身近な医療機関なのです。
 

口腔内の構造がいびきに影響する?

いびきの主な原因は気道の狭窄にありますが、その構造に大きく関与しているのが口腔内です。
具体的には、舌の大きさや位置、上顎と下顎のバランス、歯並び、口蓋(上あごの天井部分)の形状などが、気道の広さに影響を与える要素となります。

例えば、舌が大きい(巨舌症)場合や、舌が後方に落ち込みやすい構造をしている人は、睡眠中に気道が塞がれやすくなり、いびきをかきやすくなります。
また、下顎が後方に引っ込んでいる「下顎後退型」の方は、舌の付け根が喉側に寄ることで気道が狭くなるため、いびきや無呼吸のリスクが高まります。

これらの口腔内の構造は、歯科医師が日々の診療のなかで詳しく診ているポイントです。
そのため、口腔内の状態からいびきのリスクを予測したり、マウスピースの設計に反映させたりといった専門的な対応が可能となります。
呼吸・睡眠との関係を含めた「機能的な視点」から、いびき治療を進めることができるのが、歯科の大きな強みです。
 

顎の位置と気道確保の関係性

いびきに対する歯科的アプローチの中で、特に注目されているのが「顎の位置」と「気道の通りやすさ」との関係です。
下顎が後方にあると、舌も一緒に喉の奥へと引き込まれやすくなります。
これによって舌根部が気道を塞ぎ、呼吸時の空気の流れが悪くなることが、いびきの直接的な原因になるのです。

そのため、下顎を前に出すことで舌の位置が前方に移動し、気道を確保しやすくするという考え方が「マウスピース治療(スリープスプリント)」の基本となります。
この装置は睡眠中に装着することで下顎を軽く前方にキープし、気道の閉塞を防ぎながら、呼吸をスムーズに行えるようにする仕組みです。

また、歯科では顎関節の動きや噛み合わせのバランスも細かく診ることができるため、その人に合ったマウスピースの調整が可能です。
顎の可動域や筋肉の緊張具合を考慮しながら、いびきの軽減と顎への負担のバランスを両立する治療が求められます。
顎の位置という視点からアプローチできるのは、まさに歯科ならではの専門性といえるでしょう。
 
 

4. マウスピース(スリープスプリント)とは?

 

 

睡眠時に装着するだけの治療法

マウスピース治療、正式には「スリープスプリント」と呼ばれるこの装置は、睡眠中に口の中へ装着するだけでいびきや軽度の睡眠時無呼吸を緩和する治療法です。
装置の構造はシンプルで、上下の歯にフィットするように作られており、就寝時に下顎をやや前方に固定するよう設計されています。
この下顎の前方移動によって、舌が喉の奥へ沈み込むのを防ぎ、気道(空気の通り道)を広く保つことができるのが最大の特徴です。
手術や薬を使わず、自然な形で気道を確保するこの方法は、患者様の負担が少なく、継続しやすいというメリットがあります。
また、持ち運びもしやすく、旅行や出張時にも使える利便性の高さから、生活スタイルを大きく変えずに治療を継続できる点も評価されています。
スリープスプリントは、保険適用の対象となる場合もあり、医科での診断(特に睡眠時無呼吸症候群の確定診断)をもとに、歯科医院で装置を作製・調整していく流れが一般的です。
非侵襲的でありながら効果的なこの治療法は、いびき改善の選択肢として非常に有効です。
 

顎を前方に移動させて気道を広げる仕組み

スリープスプリントの治療メカニズムは非常にシンプルですが、その効果は医学的にも確立されています。
主な目的は、下顎をわずかに前方へ移動させることによって、舌や軟口蓋を引き上げ、気道の閉塞を防ぐことにあります。
これにより、空気の流れがスムーズになり、いびきの音が軽減されるだけでなく、無呼吸状態も改善される可能性があります。

眠っている間、人の筋肉は弛緩しやすく、特に舌の筋肉は重力に従って喉の奥へ沈みやすくなります。
そのため、下顎の位置が後退している方や、もともと気道が狭い構造をしている方は、空気の通り道が容易に塞がれてしまい、いびきや無呼吸の原因になります。
この状態を改善するために、スリープスプリントは下顎を少しだけ前に出した状態で固定するように設計されているのです。

このように、マウスピースによる力学的な顎位の調整は、薬に頼らず、体の構造を活かした非常に理にかなったアプローチといえます。
また、個々の口腔構造に合わせてオーダーメイドで作られるため、使用時の違和感が少なく、適切な調整を重ねることで高い装着率と治療効果が期待できます。
 

CPAPとの違いと、それぞれの適応範囲

いびきや睡眠時無呼吸の治療法として、スリープスプリントと並んで広く知られているのが「CPAP(シーパップ)」です。
CPAPは、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、持続的な陽圧によって気道を押し広げる治療法で、中等度~重度の睡眠時無呼吸症候群に対して非常に高い効果を発揮します。

一方、スリープスプリントは軽度から中等度の症状を対象とすることが多く、CPAPほどの物理的効果はありませんが、携帯性・装着の手軽さ・使用継続率などの点で優れているという特徴があります。
特に、「CPAPを使いたくない」「持ち運びが不便」「違和感が強くて眠れない」といった理由で治療の継続が難しい方にとっては、スリープスプリントは有力な代替手段となります。

また、スリープスプリントは歯科で製作・調整を行うことができるため、歯の状態や顎関節への負担を考慮しながら、個別に最適な治療設計を進めることが可能です。
CPAPとスリープスプリントにはそれぞれの適応と特徴があり、患者様の症状やライフスタイルに応じて、どちらが適しているかを医科・歯科が連携しながら判断することが理想的です。
 
 

5. 歯科でのいびき治療の流れを解説

 

 

初診時のカウンセリングと検査内容

歯科でいびき治療を始める際、まず行われるのが初診時のカウンセリングと基礎的な口腔内検査です。
ここでは、いびきの頻度や音の大きさ、就寝時の姿勢、日中の眠気の有無などを詳しくヒアリングし、睡眠中の呼吸状態に関する症状を丁寧に確認します。
必要に応じて、ご家族やパートナーの意見も参考にされることがあります。

また、口腔内の状態を確認するために、虫歯・歯周病・顎関節・歯並びなどをチェックします。
これは、マウスピースを製作・装着する際に、基礎となる歯や顎の状態が治療に耐えうるものであるかを判断するためです。
加えて、舌の大きさや軟口蓋の位置、喉の奥のスペースなど、いびきの原因となり得る口腔内の解剖学的特徴も診断していきます。

いびきが重度であったり、睡眠時無呼吸が疑われる場合は、医科(睡眠外来や呼吸器内科)での終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)などを併用して診断を確定させたうえで、歯科との連携治療が行われるのが理想的です。
 

マウスピース作製までのステップ

口腔内の状態や医科での診断に基づき、マウスピース(スリープスプリント)による治療が適応と判断された場合、次のステップとして精密な型取りと咬み合わせの記録が行われます。
この工程が非常に重要で、装置のフィット感や効果に直結するため、慎重に行われます。

まず、上下の歯列の型を取り、咬合器と呼ばれる装置で咬み合わせの再現を行います。
このとき、下顎をどの程度前方に誘導するかも個別に設定され、気道の確保と顎関節への負担のバランスが最適化されるよう調整されます。
完成した装置は、患者様の口腔にぴったり合うようにオーダーメイドで製作され、通常1~2週間程度で完成します。

装着時には、実際にマウスピースを装着した状態でのフィッティング確認と、使用方法・注意点の説明が行われます。
患者様が安心して自宅で使用できるよう、使用前後のケアや取り扱い方法も丁寧に説明されるのが一般的です。
こうしたプロセスを経て、いびき改善に向けた治療が本格的にスタートします。
 

定期的な調整とメンテナンスの重要性

マウスピース治療は「装着して終わり」ではなく、定期的なメンテナンスと微調整が治療成功のカギを握ります。
使い始めの数週間は、装着時の違和感や咬み合わせの変化、顎関節への負担などが出やすいため、1~2週間ごとのチェックが推奨されます。
その後も、使用状況や効果、装置の劣化を確認するために、3~6ヶ月ごとの定期受診が理想的です。

また、装置は使用するうちにわずかに変形したり、歯の位置が変化することで適合が悪くなることがあります。
そうした場合には、再調整や再製作が必要となるケースもあるため、自己判断での長期使用は避けるべきです。
特に、顎関節に負担がかかっていると感じた場合や、いびきが再発してきた場合は、早めの受診が推奨されます。

さらに、定期的なメンテナンスでは、いびきの改善状況に加えて、睡眠の質や日中の眠気、集中力の回復なども確認され、治療の総合的な評価が行われます。
必要に応じて医科との情報共有もなされ、より精密で継続的なフォローが受けられる体制が整っています。
 
 

6. どんな人がマウスピース治療に向いている?

 

 

軽度〜中等度のいびき・無呼吸に適応

マウスピース(スリープスプリント)治療は、軽度から中等度のいびきや閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に対して特に有効とされています。
この治療法の目的は、就寝中に下顎を前方に移動させて気道を広げ、呼吸をスムーズに保つこと。
そのため、呼吸停止が頻繁に起こるような重度の無呼吸症候群には十分な効果を発揮しにくく、適応が限られます。

具体的には、睡眠中の無呼吸や低呼吸が1時間あたり5〜30回程度である「軽度〜中等度OSA」が対象となります。
また、「いびきはあるが、無呼吸まではいかない」という方や、「CPAP(持続陽圧呼吸療法)は合わなかったが、他の選択肢を探している」という方にも適しています。
携帯性や使いやすさを重視する人にとって、マウスピース治療は非常に現実的な選択肢です。

その一方で、重度の無呼吸が確認されている場合には、医科との連携のもとでCPAPなどの治療と併用したり、症状の程度に応じた対応が必要になります。
マウスピースは万能ではありませんが、適切なケースでは高い効果が期待できる治療法です。
 

鼻呼吸が確保できているかどうかがカギ

マウスピース治療を安全かつ効果的に行うには、鼻呼吸がしっかりと行えることが前提条件となります。
なぜなら、スリープスプリントを使用中は基本的に口を閉じた状態が推奨され、口呼吸しかできない方では装置の効果が得られにくくなるからです。

鼻づまりが慢性化していたり、アレルギー性鼻炎や鼻中隔湾曲症といった問題を抱えている方は、睡眠中に鼻呼吸が困難となり、マウスピースの使用に支障をきたすことがあります。
そのため、いびきや無呼吸の治療を検討する際には、耳鼻科的な診察も同時に行うのが望ましいとされています。

また、口が自然に閉じられない方や、唇の筋力が弱くポカンと口が開いてしまう方も、装置の保持が不安定になりやすいため注意が必要です。
このようなケースでは、呼吸経路の改善や口唇閉鎖力のトレーニングと併用して治療を進めることが提案される場合もあります。

鼻呼吸の可否は、単なる快適さの問題ではなく、マウスピース治療の成否を左右する大きな要因です。
そのため、治療開始前には口腔・呼吸・姿勢など、総合的な評価を受けることが重要です。
 

医科との連携が必要なケースとは

いびきや無呼吸の症状が顕著である場合や、既に心疾患・高血圧・糖尿病などの全身的な疾患を抱えている方は、歯科単独での治療よりも医科との連携が欠かせません。
特に睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、睡眠専門医によるポリソムノグラフィー(終夜睡眠検査)によって、病態を正確に評価する必要があります。

歯科ではマウスピースによる治療を行うことができますが、その適応かどうかを判断するためには、医科からの診断情報が必要になるケースもあります。
また、CPAPが第一選択とされる重症例では、歯科的アプローチが補助的な役割を果たすこともあります。
治療の中心がどこになるかは、症状の重症度によって決まるのです。

このように、いびき治療は単に口腔の問題だけでなく、呼吸・循環・代謝など全身との関係性も深く、医科と歯科の連携によって初めて安全かつ効果的な治療が実現します。
歯科でのマウスピース治療を検討する際も、必要に応じてスムーズに医科と連携できるクリニックを選ぶことが、安心して治療を進めるうえでの大切なポイントです。
 
 

7. マウスピース治療のメリットと注意点

 

 

睡眠の質が改善される可能性

マウスピース治療(スリープスプリント)を行う最大のメリットは、睡眠の質が大きく向上する可能性があることです。
いびきや睡眠時無呼吸は、眠りが浅くなり、身体や脳が本来必要とする休息を得られない状態を引き起こします。
マウスピースを使うことで、気道の閉塞が軽減されると、より深いノンレム睡眠に入りやすくなり、日中の眠気や倦怠感が改善される効果が期待されます。

また、睡眠の質が上がることで、集中力や記憶力が向上し、仕事や学業のパフォーマンスにも好影響が出ることがあります。
さらに、睡眠不足が続くことで起こりがちな頭痛や情緒不安定などの不調も、改善される可能性があります。
いびきは「音の問題」ではなく、「質の良い睡眠を妨げる健康課題」であるという認識のもと、適切な治療を受けることが大切です。

マウスピースは、使用を始めてから早い段階で効果を実感される方も少なくありません。
医科の治療と比べても、非侵襲的でストレスが少ないという特性から、継続率の高さもこの治療の強みとなっています。
 

持ち運びができて旅行や出張にも便利

スリープスプリントのもう一つの大きな利点は、コンパクトで軽量なため、出張や旅行など外泊時にも簡単に持ち運べることです。
CPAP(シーパップ)のような機械装置は、確かに高い治療効果を誇りますが、電源の確保や持ち運びの煩雑さがネックになることもあり、旅行や出張が多い人には負担になることがあります。

一方、マウスピースはケースに入れて持ち運ぶだけで、どこでも普段通りに使用することが可能です。
電源も不要で、使用前後に軽く洗浄するだけの簡便さは、ライフスタイルを変えずに治療を継続するうえで大きなアドバンテージとなります。

また、空港のセキュリティチェックでも問題なく通過でき、宿泊先での使用も目立ちません。
使用の自由度が高いという点は、継続治療において非常に重要な要素であり、いびき治療のハードルを下げてくれるポイントです。
特に仕事や家庭の事情で日常が忙しい方にとって、この“気軽さ”は治療選択の決め手になることも少なくありません。
 

噛み合わせや顎関節への影響に注意

マウスピース治療には多くのメリットがありますが、使用にあたっては一定の注意点やリスクも存在します。
その一つが「噛み合わせ(咬合)」や「顎関節」への影響です。
装置は就寝中に下顎を前方に誘導・保持する構造になっているため、長時間の装着によって顎の筋肉や関節にストレスがかかる場合があります。

特に、もともと顎関節症の症状を持っている方や、顎の関節に痛みや違和感が出やすい方は、使用前に必ず歯科医師による評価を受けることが大切です。
また、装着を続けているうちに、朝起きたときに顎が疲れている、口が開きにくい、咬み合わせが変わったように感じるといった変化が現れる場合があります。

こうした症状を放置すると、顎関節や咬合のバランスが崩れ、歯に過剰な力がかかることで、歯の摩耗や歯周組織への負担が増すリスクも否定できません。
そのため、マウスピースは「作って終わり」ではなく、定期的なチェックと必要に応じた調整・再製作が不可欠です。

使用中に少しでも違和感を感じたら、自己判断せず、必ず歯科医師に相談するようにしましょう。
安全で効果的な治療を続けるためには、医師との連携を保ちながら慎重に進めることが重要です。
 
 

8. マウスピースを作るならどこへ?歯科医院選びのポイント

 

 

睡眠時無呼吸やいびきに対応しているか

マウスピース治療を希望する場合、どこの歯科医院でも対応できるわけではありません。
いびきや睡眠時無呼吸へのマウスピース治療は、一般的な虫歯や歯周病の治療とは異なる専門性が求められます。
したがって、「スリープスプリント」「睡眠時無呼吸」「いびき治療」などに対応している歯科医院を選ぶことが最初のステップです。

このような医院では、気道や顎位(下顎の位置)、咬合状態を総合的に診る力を備えており、マウスピースがどの程度効果的に働くかを見極めたうえで適切な装置設計が可能です。
また、睡眠時無呼吸症候群(OSA)が疑われる場合には、医科との連携を前提とした診療体制を整えているかどうかも重要な判断材料となります。

医院のホームページや予約サイトを確認すると、睡眠時のいびきや無呼吸に特化した情報を掲載していることがあります。
自分の症状に合ったマウスピース治療が受けられるかどうか、事前に調べてから予約を取るようにしましょう。
 

医科との連携体制が整っているか

いびきや睡眠時無呼吸の治療は、歯科単独で完結するケースもありますが、より安全で効果的な治療を行うには、医科とのスムーズな連携が重要です。
たとえば、重度の睡眠時無呼吸症候群の方に対しては、CPAP治療が第一選択とされることもありますし、合併症のある患者様には医科的な管理が必要になる場合もあります。

こうした理由から、睡眠外来や呼吸器内科、耳鼻咽喉科と連携して診療を進めている歯科医院は安心です。
具体的には、医科で行われた睡眠検査(ポリソムノグラフィーなど)の結果をもとに、歯科で適応を判断し、必要に応じて経過報告や再評価を行う体制が整っている医院が理想的です。

また、歯科側が医学的な側面を理解していることも重要です。単に「マウスピースを作る」だけでなく、患者の全身状態や生活習慣も含めて診る力を持つ医院であれば、治療の質は格段に高まります。
受診前に「いびき治療は医科との連携がありますか?」と確認してみるのも一つの方法です。
 

検査・装置・フォローアップが丁寧かどうか

マウスピース治療は装置を作って終わりではありません。
むしろ、その後の調整・管理・評価の積み重ねが治療効果を左右するため、治療の「継続性」に力を入れている医院を選ぶことが大切です。

例えば、初診時の問診が丁寧で、睡眠の状況や生活習慣について詳しくヒアリングしてくれる医院は、症状に真摯に向き合う姿勢がある証拠といえるでしょう。
装置の製作においても、ただの型取りだけでなく、下顎の前方位や咬合状態を正確に記録して設計しているか、装着時にフィット感や圧迫感をきちんと確認しているかがポイントです。

また、使用開始後には定期的な通院で装置の状態を確認し、必要に応じて調整や再製作を行ってくれる医院であれば、安心して長く治療を続けることができます。
加えて、マウスピースのメンテナンスや保管方法、使用上の注意点をしっかりと説明してくれるかどうかも重要です。

「治療の提供」だけでなく、「伴走する姿勢」がある医院は信頼性が高いといえます。
カウンセリングや事前説明の段階で、誠実な対応を感じられるかどうかも、医院選びのひとつの目安にしてみてください。
 
 

9. 生活習慣の見直しもいびき対策の一部

 

 

体重管理と食生活の改善が鍵

いびきの予防や軽減には、マウスピースや医療的処置だけでなく、日々の生活習慣の改善が非常に大きな意味を持ちます。中でも重要なのが「体重管理」です。体重が増えると、首周りや喉の周辺に脂肪がつきやすくなり、睡眠時に気道が狭くなることで、いびきが発生しやすくなります。特に肥満傾向のある方は、気道の物理的圧迫により、いびきや無呼吸のリスクが顕著に上がると言われています。

また、食生活の乱れもいびきに影響します。脂質や糖分の多い食事は体重の増加を招くだけでなく、消化に負担をかけるため、睡眠の質を低下させる要因にもなります。寝る直前の食事も、横になることで胃からの圧迫を生み、呼吸が浅くなったり気道が閉塞しやすくなるため注意が必要です。

適切な体重を維持し、バランスのとれた食事を心がけることは、いびきの改善において基本中の基本です。とくにマウスピース治療を併用する場合でも、体重管理ができているかどうかで効果の出方が異なることもあるため、医療的アプローチと並行して生活改善を意識することが大切です。
 

寝る姿勢や枕の見直しも効果的

睡眠中の姿勢も、いびきを左右する重要な要素のひとつです。仰向けで寝ると、舌が重力により喉の奥へ沈み込みやすくなり、気道が狭くなることでいびきをかきやすくなります。これに対し、横向きで寝ることで舌の沈下を防ぎ、気道が確保されやすくなるため、いびきの軽減につながることがあります。

また、枕の高さや硬さが合っていないと、首や喉周辺の筋肉に余計な力がかかり、これも気道を狭める原因になります。特に高すぎる枕は、首が曲がって気道が圧迫されやすくなるため注意が必要です。逆に低すぎても顎が後退し、同様にいびきを引き起こす要因になり得ます。適切な高さで首を自然なカーブに保てる枕を使うことが、いびきの予防に有効です。

最近では、いびき防止を目的に開発された特殊な形状の枕も市販されており、自分に合ったものを選ぶことで睡眠の質向上が期待できます。就寝前の姿勢確認や寝具の見直しも、手軽にできるいびき対策のひとつとして、ぜひ意識して取り入れてみてください。
 

アルコール・喫煙・口呼吸の影響

アルコールや喫煙といった嗜好習慣も、いびきを悪化させる大きな要因です。まず、アルコールは筋肉の緊張を緩める作用があるため、睡眠中に喉や舌の筋肉が弛緩しやすくなり、気道の狭窄を助長してしまいます。飲酒後にいびきがひどくなるのはこのためで、特に就寝直前の飲酒は避けた方が良いとされています。

一方、喫煙は気道や鼻粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、鼻づまりや咽頭部の腫れによって空気の通りが悪くなる原因となります。さらに喫煙者は慢性的に酸素飽和度が低くなる傾向があり、睡眠時の呼吸に悪影響を与えることもあります。禁煙によって呼吸の改善が見られるケースも多く、いびき対策の一環として禁煙は非常に有効です。

また、口呼吸の習慣もいびきに直結します。鼻が詰まりやすい人や、口を開けて眠る癖がある人は、空気が喉を直接通ることで振動が起きやすくなり、いびきが発生します。口テープや鼻腔拡張テープなどを使用することで鼻呼吸を促進し、いびきの軽減を図る方法もあります。

こうした嗜好や呼吸の癖も、改善を心がけることで、マウスピースなどの治療効果をより高めることが可能です。いびきは生活習慣の見直しと密接に関係しているため、医療と日常のセルフケアを両輪として取り組むことが理想的です。
 
 

10. いびきに悩んでいるなら、まずは歯科に相談を

 

 

いびきは「治せるかもしれない」症状

「いびきは年齢のせい」「太っているから仕方がない」「疲れているだけ」と、いびきをあきらめている方は少なくありません。しかし、いびきは体質や習慣に左右される一方で、正しい治療を受けることで軽減、あるいは改善できる症状であることも事実です。そのため、「仕方ない」と放置するのではなく、「治せる可能性がある」という前向きな視点で捉えることが大切です。

特に、慢性的ないびきがある方や、日中の眠気・集中力の低下・頭痛などの自覚症状がある方は、何らかの呼吸障害が隠れている可能性も否定できません。いびきが続いていること自体が、体からの「休息がうまく取れていない」というサインでもあります。放置しておくと、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を悪化させる要因にもなり得るため、早期の対策が重要です。

いびきは生活の質(QOL)を下げるだけでなく、周囲の人との関係性にまで影響を及ぼす可能性があります。「うるさい」「心配」と言われて気まずい思いをする前に、専門的な視点から原因を探る行動を取ることが、自分にも家族にも良い選択肢となるはずです。
 

歯科だからこそできる気道へのアプローチ

いびきの治療において、歯科医院が果たせる役割は想像以上に大きいものです。歯科では、口腔内や顎の構造を専門的に診断できるため、下顎の位置や舌の状態など、気道確保に関係する部分へ直接アプローチが可能です。これは、マウスピース(スリープスプリント)による治療法がその代表例です。

このマウスピースは、寝ている間に下顎をわずかに前方に移動させることで、舌根が喉の奥に沈み込むのを防ぎ、気道を広く保つ効果が期待されます。このように、歯科の専門領域である「顎・口・咬合」の知識を活かした治療法は、いびきや軽度〜中等度の睡眠時無呼吸症候群に対して非常に有効です。

また、歯科医院では口の中だけでなく、生活習慣や睡眠の質についても相談できる体制が整っているところもあります。加えて、医科との連携を行っている医院であれば、睡眠時無呼吸症候群の診断や治療方針の共有もスムーズに進められます。「口から始まる睡眠改善」という観点から、歯科は非常に身近で頼れる存在です。
 

息苦しい夜からの卒業へ、第一歩を踏み出そう

夜中に何度も目が覚めたり、朝起きても疲れが取れていなかったり――そういった睡眠の質の低下に心当たりがある方は、ぜひ早めに行動してみてください。いびきは、そのままにしていても自然に治ることはあまりなく、むしろ年齢や体重の変化とともに悪化するケースが少なくありません。「まだ大丈夫」ではなく、「今のうちに対処しておこう」という姿勢が、将来の健康を守るカギになります。

まずは、いびきに対応している歯科医院に相談してみることをおすすめします。歯科でできること、医科との連携が必要なことを整理したうえで、最適な治療方針を一緒に考えてくれるパートナーを見つけることが第一歩です。マウスピース治療だけでなく、生活指導や口腔ケア、定期的なメンテナンスを通じて、総合的にいびき改善に取り組むことができます。

「夜ぐっすり眠れて、朝スッキリ目覚められる」――そんな日常を取り戻すために、まずは一歩踏み出して、専門家に相談してみませんか? 歯科は、あなたの睡眠と健康を支える頼れる窓口です。
 
 
 

監修:医療法人社団 櫻雅会
   オリオン歯科医院
住所:千葉県白井市大松1丁目22-11
電話番号 ☎:047-491-4618

*監修者
医療法人社団 櫻雅会 オリオン歯科医院
ドクター 櫻田 雅彦
*出身大学
  神奈川歯科大学
略歴
・1993年 神奈川歯科大学 歯学部
     日本大学歯学部大学院博士課程修了 歯学博士
・1997年 オリオン歯科医院開院
・2004年 TFTビル オリオンデンタルオフィス開院
・2005年 オリオン歯科 イオン鎌ヶ谷クリニック開院
・2012年 オリオン歯科 飯田橋ファーストビルクリニック開院
・2012年 オリオン歯科 NBFコモディオ汐留クリニック開院
・2015年 オリオン歯科 アトラスブランズタワー三河島クリニック 開院
*略歴
インディアナ大学 JIP-IU 客員教授
・コロンビア大学歯学部インプラント科 客員教授

・コロンビア大学附属病院インプラントセンター 顧問
ICOI(国際口腔インプラント学会)定医
・アジア太平洋地区副会長
・AIAI(国際口腔インプラント学会)指導医
・UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)インプラントアソシエーションジャパン 理事
・AO(アメリカインプラント学会)インターナショナルメンバー
・AAP(アメリカ歯周病学会)インターナショナルメンバー
・BIOMET 3i インプラントメンター(講師) エクセレントDr.賞受賞
・BioHorizons インプラントメンター(講師)
日本歯科医師会
日本口腔インプラント学会
日本歯周病学会
日本臨床歯周病学会 認定医
ICD 国際歯科学士会日本部会 フェロー
JAID(Japanese Academy for International Dentistry)任理事